映画『ダウンレンジ』ネタバレ感想 ツイストの効いた展開と仕込みのうまさが光る意欲作
先日、試写会で観た時の感想をネタバレなしで書きましたので、今日はネタバレありで感想を書きたいとおもいます。
ネタバレなしの感想はこちら
路上で作る限定的なシチュエーション
チラシにもある通り、ソリッドシチュエーションスリラーと銘打たれている本作。
ネタバレなしの感想記事で、このジャンルを成立させるために必要な限定的なシチュエーションを、路上という閉鎖性とは真逆の開放的な場所で表現しているのが面白いと書きました。
これは具体的にどう面白かったかというと、パンクして動かない車によって路上を限定的な空間に変えてしまった手法が見事だったということ。
車を隔てて向こう側からはスナイパーが狙ってくるから、車のこちら側から離れることができない。スマホで通信ができる場所までは車から絶妙に届かない。この状況によって限定的な空間が作り出されていました。
本作の冒頭すぐに車がパンクして停止していまった際に、各人が周囲をうろうろする描写で、今回の空間的な情報をさりげなく事前に提示しているのも周到に用意されていて上手いですよね。通信ができる場所は車から微妙に離れているということを観客に理解させるのもこの時です。
この構図を基本としながら、状況変化によるメリハリが物語の推進力になっていた印象です。
車を押して動かす時の一悶着とかは、この状況ならではのアクションですよね。
ツイストの効いた決着
女がスナイパーから奪った銃で反撃に出ます。何度か撃ち込みますがまだスナイパーは死なず、途中で銃弾が詰まってしまいます。そうなれば当然、銃の柄の部分で相手を殴って息の根を止めようとするわけですが、殴っている最中にさっきジャムった銃弾がリロードされて自分に向けて発射されてジ・エンド。
この、両者相討ち、リングアウト、勝者なしの感じからの、タイトルがバーン!エンドロールの切れ味にシビれましたね。
最終盤ですから、女とスナイパーのどちらが優位に立てるか予断を許さない状況です。その最中で、銃弾が詰まってしまうのは、立場が変わってしまうのではないかと、どきりとさせてくれる効果を持つわけです。
この「銃弾が詰まる」という描写、普通ならこのように緊張感を高めるだけに存在するのでも良いのに、詰まった銃弾がまた最後に活きてくるというツイストの効いた展開は見事でしたねー。
正体不明のスナイパー
好みの差はあるんでしょうが、スナイパーの素性がわからないままというのが、本作の魅力になっていると個人的には思っています。
本作のコンセプトは「何者かにどこかから狙われていて超怖い」です。
命を狙われているので当然怖いんですが、何者かわからないというのが余計に怖さを強調しています。
ところが、素性がわかってしまうと怖さ半減ということになりかねないと思います。
なぜなら、素性がわかる=合理的な説明がつくということなので、観客の理解に収まってしまい存在が矮小化されてしまうからです。
スナイパーの目的が復讐のためとか、何か理由があって気が狂っているとか、なんでも良いですが説明がつくと、行動原理が理解できてしまいます。
それよりも、得体の知れないやつが理由もわからず狙ってくる方が、自分の理解を超えた怖さがあります。
更に、素性を明かすとなると当然、素性がわかるようなシーンが挿入されることになるわけですが、それも物語を停滞させる原因になりかねません。
90分という上映時間の短さもスピード感を持って進んでいく本作の良さなので、冗長なシーンが増えるのは考えものですし、素性がわかることがスナイパーへの反撃に必要なことであれば、その展開もありですが、今作のプロットはそういうことではないので、このシーンはやはり不要です。
こういった観点からも、スナイパーの素性がわからなくて、良かったなと感じています。
試写会の時に機会があったので、監督に尋ねてみましたが、やはりスナイパーがキャラクターとしてバックグラウンドを持たないというのは意図的だそうです。
言ってしまえばスナイパーは突然襲ってくる「死」そのものの象徴ということも仰ってたので、理解を超えた恐怖という点で我が意を得たりという感があり一人悦にいっております。
最後に
前述したようなこと以外にも、横転する車から人が飛び出すっていうカークラッシュも見応えあったりして、低予算だろうによくやってるなーと関心しきりでした。
あと、セルフィースティック(自撮り棒)が出てくるのも今どきっぽいんですが、新たな使い方が見れたのも楽しかったですね。
全体的に後の展開を無理なく飲み込めるような仕込みが、その時は仕込みとわからず配置されている印象を受けたので、良い脚本だったと思います。
本日はこれまで。
それではみなさんご機嫌よう。
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