映画『セントラル・インテリジェンス C.I.A.』感想 コメディーとドラマがハイレベルで共存する傑作
今回は『セントラル・インテリジェンス C.I.A.』の感想です。
(原題:CENTRAL INTELLIGENCE)
Amazonプライム・ビデオで見ました。
(画像引用元:セントラル・インテリジェンス : 作品情報 - 映画.com)
公式HP:
あらすじ
高校時代はスーパースターだったが、今はしがない中年会計士のカルヴィン(ケヴィン・ハート)。そんな彼に突如、当時おデブでいじめられっ子だったボブから20年ぶりに会いたいとの連絡が。しぶしぶ会いに行くと、彼の前に現れたのは、マッチョな肉体へと変貌を遂げていたボブ(ドウェイン・ジョンソン)の姿だった!しかも実は彼はCIAで、濡れ衣を着せられ組織から追われる身のため、どうしてもカルヴィンに助けてほしい、と言う。なぜか一緒に逃げるはめになったカルヴィン。果たして彼を信じていいのか?そしてボブは一体何者なのかー??
予告編
とりあえず楽しくて面白いからみんな見てよ!
設定からして面白い
設定の勝利
【高校時代に正反対の立場にいた二人が、20年後に正反対のまま立場が入れ替わって、騒動に巻き込まれて行く】
この設定で面白くないわけがないんですよ。実際に見てもやっぱり、面白くて楽しい作品でした。何が楽しかったのか、順に説明します。
高校時代とのギャップ描写
まず、高校時代と現在のギャップの描写が楽しいです。
なんと言っても、面白いのは、おデブのいじめられっ子だったロビー・ウィアディクトが、ボブ・ストーンと名前を変えて登場するシーンですね。
ボブを演じるのはドウェイン・ジョンソンですから、ロビーからボブへの肉体の変貌ぶりの凄さに笑ってしまいます。
その流れで、バーで絡んできたチンピラを瞬殺するところは、肉体改造に成功したボブの自己紹介がわりの見せ場として楽しいシーンです。「イジメ反対」っていうセリフも小気味良いですね。
他方の、カルヴィン・ジョイナーは、高校時代はスーパースターで全校生徒の憧れの的でしたが、今となってはしがないサラリーマン。元部下に出世を先越される有様といった、哀愁漂う中年となっています。
昔はともかく、今は特別なものを何も持たない彼は、ボブとの対比を面白くするという設定上の存在理由とともに、観客をこの物語へ導入する役割を担っています。
多くの観客同様、カルヴィンを普通の人として描くことで、彼の視点を通じて、我々観客が本作の物語の中に無理なく入りこんでいけるよう設計されているわけですね。
一般市民巻き込まれ型大騒動
さて、騒動が起きてからは、カルヴィンが否応無しに巻き込まれて行く過程が楽しいです。
映画においては、人が何かに巻き込まれていくだけで、不思議と面白くなるような気がします。そこになんらかのダイナミズムが生じていることを感じ取っているのだろうというのが個人的な見解です。
普通に生活していたら起きるはずのない様々な出来事が、自身の身に降りかかってきたことに、カルヴィンはツッコミを入れながら対応して行きます。このツッコミは観客の気持ちの代弁でもあり、さらに、ツッコミによるメタ視点の回復で、冷静さを取り戻そうとしている、カルヴィンの無意識的な生存本能による行動として良く考えられていると思います。
コメディーとしての面白さ
登場人物のセリフ回しはいちいち楽しく、ちゃんと面白いコメディー見てるなという気持ちにさせてくれます。
例えば、カルヴィンと妻マギーの、同窓会に出る出ないのやりとりとかはカルヴィンの拗ねっぷりとかが楽しいところですし、
君は職場で出世してる
俺は職場の外にゴリラが
このカルヴィンのセリフの後に、実際に会社前の巨大なバルーンのゴリラが映し出されたりするだけでも面白いので、ギャグとして成立しているんですけど、そのあとの展開にきちんと活きてくるあたりもさすがです。
こういう気配りが効いてるところの楽しさもコメディーとして良くできてるなと感心させられます。
ドウェイン・ジョンソンを使ったギャグ
ドウェイン・ジョンソンの言うギャグではなく、ドウェイン・ジョンソンそのものがギャグになってます。
もうこの人の圧倒的な肉体と顔による説得力でどんな展開も許容できますし、個人的にもそんなロック様が大好きです。
こうしたメタ的なギャグは『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』でも特技:顔芸としてイジられてましたね。
そういう辺り、ドウェイン・ジョンソンという人は自分の世間的なキャラクターを理解した上での作品選びが相当上手いんだろうなと感じさせてくれるところでもあります。
そう言えばジュマンジ続編では本作のカルヴィル役のケヴィン・ハートとも再びタッグを組んでました。
ロック様の圧倒的な肉体と顔を逆手に取ったパターンとして、高校時代のおデブなロビーの顔だけドウェイン・ジョンソンっていうギャグもサイコーです。
コメディー設定だけじゃない、ドラマ部分も素敵
自分を取り戻し、真に大人になるための物語
監督のローソン・マーシャル・サーバーはインタビューで本作についてこのように語っています。
大人になるとはどういうことか、それを探求する男の話だ。僕がこの作品で好きなのは、そこなんだ。イジメられ、もがいた挙句に自分自身を取り戻す。誰でも決して誇れない側面を持っていて、それを露出することを怖がっているものだが、そういう側面は確かにある。間抜けな人間でもカッコよくなれる良い例がカルヴィンとボブだ。
このメッセージは非常に素敵だと思います。
全校生徒のいるところに、全裸の状態で引きずり出され、恥をかかされたロビー=ボブが、20年後の同窓会で再び同級生達の前に現れるとき、彼が語る言葉は非常に印象的です。そしてここにこそ監督の語ったメッセージが良く現れています。
主人公になるのに必要なのは 悪者退治じゃない
イジメを克服することだ
それが人や物であっても
自分の持つ素質のすべてを みんなにさらけ出そう
人と比べるのではなく 自分自身を磨くんだ
これらの言葉に続け、「みんな、これがロビー・ウィアディクトだ」と言って、彼が鍛え上げられた肉体を披露する場面は、ロビーがまさしく自分を取り戻した瞬間と言えます。
恥をかかされたあの日から20年、誰の前でも裸を見せてこなかったと言っていた彼が、大勢の前で裸になるということは、自分を受け入れ、ようやく大人になれたことを示す感動的なシーンなんです。ただ単にドウェイン・ジョンソンの常人離れした筋肉美を映すだけのサービスにあらずということですね。
裸となったロビーが、親友となったカルヴィンや、想いを寄せていたダーラをはじめ、大勢の前で踊っているというシーンは、シャワーを浴びながら一人で踊っていた冒頭のシーンと対になっているあたりもニクい演出です。
カルヴィンにとっての物語
もう一人の主人公、カルヴィンはどうでしょうか。
高校時代の栄光と現在の自分とを比較して、「自分の人生の主役になれなかった」と嘆いている彼にとっても、自分を取り戻す物語が存在します。
それは劇中で3度描かれる、宙返りの描写で語られます。
最初の宙返りは、高校時代のシーン。華麗に成功させたその姿は、栄光時代真っただ中の彼を表しています。
2度目は、20年後にボブと再開してすぐに行われますが、この時は失敗してしまいます。栄光時代とのギャップがおかしくも切ないシーンとなっており、今のさえない彼を表す描写と言えるでしょう。
そして3度目、この時も2回目同様、着地に失敗しますが、真の敵に追い詰められ絶体絶命の状況から、敵の目を逸らしボブに反撃の隙を与えるための行動でした。間抜けに見えても自分にしかできないことがあるんだと示すことで、現実の自分を肯定することができたこの瞬間に、カルヴィンは自分を取り戻したのです。
それはまるで、自分が存在することの意義を声高に叫んでいるかのごとく、一見無様なようでも力強い勇気を与えてくれるシーンでした。
このように、宙返りという同じ運動表現を3度繰り返すことで、的確にその人物の状況を観客に理解させると共に、作品全体のメッセージまでも伝えてしまう、まさに名演出でした。しかもそれをセリフではなく、アクションのみで伝えるという、極めて映画的と言える、これこそ映画でしかできない手法で表現してしまうあたり、個人的には本作のベストシーンです。
コメディーにおけるテンポの良さの重要性がよくわかる
正直なところ、捜査やCIA自体の描写などは全くリアルじゃないんですけど、凸凹コンビのコメディーバディムービーとして考えてみると、それらのリアリティーってあまり重要じゃないなと感じています。
こうしたコメディー作品の場合、肝はコンビの掛け合いによる面白さの方なので、 大事になってくるのは、コントのように流れるような掛け合いをテンポ良く見せてくれることに尽きると思います。
そういった意味で今回は脚本上の台詞回しの上手さ、そして編集の上手さがきちんと出ていたように思います。心地良いテンポで次々と進むお話を飽きることなく見続けていけました。ここができてると前述したリアリティーが稚拙でも全くノイズにならないんだなという印象です。
余談
ノンクレジットのカメオ出演でメリッサ・マッカーシーが出演してましたね。この人も好きなんですよね 。
最後に
コメディーとしての面白さ・ドラマとしてのメッセージ性のどちらも優れた、非常に良くできた作品でした。
そしてさらに笑いを誘うコメディー部分が、ドラマ部分のメッセージ性を強固にする作用を果たしているという傑作でもありました。このように作劇上の手法と、作品が持つメッセージがリンクしてくる作品は名作と言えるでしょう。
本作は観た後で自分にも他人にも優しい気持ちにしてくれる、自分にとっての大切な一本となりました。
同じ監督・主演でもうすぐ公開の『スカイスクレイパー』が俄然楽しみになってきました。
本日はこれまで。
それではみなさんご機嫌よう。
こんな記事も書いてます。